2021年2月26日金曜日

(寄稿) ゴールデンタイム― あなたを輝かせる時間

 寄稿

ゴールデンタイム― あなたを輝かせる時間 

2021/02/22 00:40

朝飯前の真意とは

『そんなの朝飯前の、お茶漬けサラサラの、たくあんポリポリだ!』子供の頃、2つ上の兄が何か頼みごとをされたときに、きまってよく言っていた言葉だ。『朝飯前』は「朝飯前でも仕上げられる簡単な仕事」という意味で使われる言葉だ。しかし最近、この言葉の真意は少し異なるのではないかと私は思い始めている。 

人には、1日のうちに体も気分も調子よく仕事や勉強がはかどる時間帯が存在している。私はその時間帯を個人的に“ゴールデンタイム”と呼んでいる。(英語では“My most productive time”が正しい言い方だと娘に笑われた・・・)ちなみに、私のゴールデンタイムは朝の5〜6時頃に訪れる。朝起きて、スターバックスのフレンチローストをグラインダーで挽き、濃い目のコーヒーを入れる。少量のミルクを入れた後、コンピューターの前に座り、それをひとススリ。すると、これまで眠っていた脳神経回路にビビーっと電流が流れるのがわかる。私のゴールデンタイムの開始である。それまで頭の中で混在していたものが、一本の線で繋がっていく瞬間だ。

それが見えたら1日の計画を立て、仕事にとりかかる。この時間帯に仕事をすると、同じ仕事内容でもなぜか簡単に感じられ、非常にはかどる。前の晩にどうしても書けなかった文章がこの時間なら、いとも簡単に書ける。いいアイデアもこの時間に出てくることが多い。脳が活発に活動しているのがわかる。私は、自分のゴールデンタイムを意識することによって『朝飯前』の真意に気がついた。『朝飯前』は「朝飯前でも仕上げられる簡単な仕事」なのではなく、「朝飯前がゴールデンタイムだから簡単に仕上げられるのだ」ということに。

しかし、このゴールデンタイム、残念なことにそう長くは続かない。私の場合、朝食をとると完全に終了する。まるで午前0時の鐘が鳴って魔法が解けるシンデレラのように。朝食をとると消えるのなら、朝食を遅くとることでその時間帯をどこまで延ばすことができるものか、目下実験中である。


体内時計によって決まるゴールデンタイム 

このゴールデンタイム、実は皆さんの体内時計が大きく関係していることをご存知だろうか。皆さんも幼い頃に一度は読んだことがあるだろうイソップ寓話の『うさぎとカメ』 を体内時計の観点から考察し、そこに面白いメッセージが隠されていることに気づいた科学者がいた(*注)。それは、うさぎは夜明けと夕暮れ時にしか活動しておらず、それに対してカメは一日中活動しているというものだ。つまり、この両者、体内時計のタイプが異なるというのだ。                                      (*注) Was Aesop a Chronobiologist? J. Takeuchi and W.J.Schwartz (1993)The Lancet 341(8860) P1606

うさぎが勝負に敗れたのは怠け者だったからでなく、自分のゴールデンタイムを把握していなかったからだ。だから、うさぎはこの勝負を夕暮れ時に持って行くべきだった。この寓話が書かれたのは今から2000年以上も前。もし、イソップがうさぎとカメのゴールデンタイムの違いに気づいて書いていたとしたら、彼は現代の科学者顔負けの観察力の持ち主である。

以前、高1の生徒に『あなたのゴールデンタイムはいつ?』というタイトルで小論文を書いてもらったが、予想通りその時間帯はバラバラだった。体内時計は人間の細胞の一つ一つに存在している。その働きは遺伝子により制御されている。つまり、体内時計は先天的な要因が大きいのである。『三つ子の魂百まで』というが、体内時計の構造は、それよりもっと前にほぼ決定されていると考えられる。顔がみんな違うように体内時計も人それぞれなのだ。

ゴールデンタイムをもとに仕事を振り分ける 

生まれた時にすでに決定されているゴールデンタイムを変えることは難しい。ならば、私たちはそれをうまく利用するしかない。自分のゴールデンタイムを早く知ることが大切だと私は考えている。

「仕事の成果の8割は、費やした時間全体のうちの2割の時間で生み出している。」

これは、イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートが提唱した法則である。私はこの2割がゴールデンタイムに相当すると考えている。この時間帯が自分なりに掴めれば、全ての計画はこの時間を中心に立てられる。大切な仕事はこの時間にする。そうでない時間はあまり頭を使う必要がない仕事(例えば、掃除や雑用など)をするように計画すればよい。時間軸で優先順位を決めれば、仕事内容の優先順位も自ずと決まるのではないか。

「己を知る」には、まずゴールデンタイムを知る 

ゴールデンタイムがあれば、全く非生産的な時間帯も存在する。これもまた体内時計によって支配されている。この二つの時間帯は周期的に訪れる。だから、自分が今どの時間帯にいるのかを正しく理解していれば、非生産的な自分にイラついたり、落ち込んだりすることもなくなるだろう。

今うまくいかないのはゴールデンタイムではないからだとか、ゴールデンタイムになれば違った自分が登場するから大丈夫だとか、とポジティブに考えることも可能になるだろう。調子がいい時の自分は放っておいても、どんどん仕事をするから大丈夫。しかし、そうでない時の自分は上手にコントロールしてあげないと、ゴールデンタイムの自分の足を引っ張りかねない。

ご先祖様から脈々と受け継がれてきたあなただけの体内時計、正しく理解してあなたを輝かせてほしい。        

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