2018年12月2日日曜日

181203追1  日本語が読めない子供たち?大人たち?





国に広がる「日本どうでもいい」の理屈                     韓国大法院(最高裁)が元徴用工の賠償請求を認める判決を出したことが、日韓関係を揺るがせている。神戸大学大学院教授の木村幹氏は「日韓は関係を修復する意味を見いだせずにおり、世論にはあきらめの感情だけが拡大している。その結果、日韓関係は『安楽死』に近づく恐れがある」と警鐘を鳴らす――。


大きな影響を持った理由は「法的論理」
10月30日に出された韓国大法院の、いわゆる「徴用工」を巡る判決が、日韓関係を大きく揺るがせている。影響は日々、大きくなりつつあり、この問題が日韓関係に与えた影響は致命的なものになりつつある。
2018年10月31日、韓国最高裁が元徴用工の訴訟で、新日鉄住金に賠償を命じる判決を下したことを報じる31日付の韓国各紙(写真=時事通信フォト)略             

判決が大きな影響を持った理由はこの判決が採用した法的論理そのものにある。第一はこの判決が徴用工を巡る問題を、請求権協定の外に置いたことである。すなわち、同判決において韓国大法院は、請求権協定に至るまでの交渉過程において日本政府は朝鮮半島の植民地支配の違法性を認めることなく終始しており、それゆえに請求権協定には、日本政府および日本政府の施策に従い企業等が行った不法行為に伴う慰謝料は包含されていない、と主張した。すなわち、これにより韓国大法院が認める植民地期のあらゆる不法行為に伴う慰謝料は、請求権協定の外にあることが確定したことになる。

第二は、これと併せてこの判決が、「不法な植民地支配」という語を採用し、いわゆる植民地支配無効論の立場に実質的に立ったことである。これにより日本の植民地期における法行為はその大部分が「不法」なものとなり、結果、この不法行為に伴う慰謝料請求権は、当時を生きたほとんどの韓国人が有することとなる。すなわち、韓国大法院の判決は、植民地期を生きた韓国人の日本の植民地支配に伴う慰謝料の個人的請求権を、請求権協定の枠外としたのみならず、その不法行為の範囲を極めて広く認定することにより、広範な人々が日本による植民地支配に伴う慰謝料請求権を有することを実質的に認めたことになる。

韓国側の「2トラック交渉」が持つ欠陥

さらに言うなら、このような状況においては、韓国側が主張する「2トラック」交渉を維持することも難しい。徴用工判決と慰安婦合意の法的効力否定は、日本側に韓国に対する強い不信感をもたらしており、その中で日本側は韓国側と何らかの協議を行うことに強い警戒感を持つことになっているからである。また、韓国側の「2トラック」提案はそもそもが大きな欠陥を有している。それは歴史認識問題や領土問題といった「第一トラック」はともかく、これと並行すべき「第二トラック」で議論すべき具体的な内容の提案が欠如しているからである。
言い換えるなら、現状、韓国側が言う「2トラック」提案とは、「どのような列車を走らせるかの提案なしに、線路(トラック)の設置のみを求める」ものであり、仮に「第二トラック」が設置されても、そこで議論される内容がなければ、その作業に意味を見いだすことはできない。

文在寅政権の「対日政策」不在

この背景にあるのは、そもそもの文在寅政権の対日政策の「不在」である。周知のように文在寅政権は北朝鮮との交渉とそれによる朝鮮半島の和平状況の構築と、この構築のための対米交渉には多くの労を割いている。しかしながら、対日政策に対しては、具体的な方針は事実上存在せず、大統領の任期内に実現すべき具体的な目標も存在しない。徴用工裁判を巡る対応を見ても、対日政策が全体としてコーディネートされているようには見えず、そもそも、文在寅大統領自身もその行動において、対日関係を重視しているようには思われない。
文在寅は就任後1年半を経た今日においても、日本を訪問したのは今年5月の日中韓首脳会談に合わせて日帰りで訪れたのが唯一であり、そこにおいて本格的な二国間協議が行われたとは言えない。さらに言えば、今年10月におけるいわゆる「旭日旗問題」発生直後、文在寅は年内の日本訪問を早々に断念している。問題が発生したからこそ、首脳が訪問してこれを議論するのではなく、問題が発生し、これをハンドリングするのが困難なので首脳会談を延期する。その姿勢から対日関係を真に重視する姿勢を見いだすことは不可能である。
もちろん、同様のことは日本側についてもいうことができる。現在の日韓関係は、両国ともに互いの関係に積極的な意味を見いだすことができない状態にあり、それ故、両国政府はその関係修復にも後ろ向きになっている。だからこそこの状況が短期間に改善される可能性は大きくない。結果、歴史認識問題や安全保障問題を巡る両国の乖離はさらに拡大し、それはやがて両国間のさまざまな関係に影響を及ぼすことになるだろう。

日韓関係の“安楽死”シナリオ

それではこのような状況にある日韓関係は今後どう展開していくのだろうか。そのシナリオは大きく二つ考えられる。第一は、拡大する乖離が両国間の決定的な対立を導き、何かしらの紛争へと発展していくシナリオである。それは例えば領土を巡る紛争であるかもしれないし、また、民間企業をも巻き込んだ歴史認識問題を巡る紛争であるかもしれない。
とはいえ、このシナリオが現実になるには一つ前提が必要になる。大規模な紛争が起こるには両国にとってその問題が死活的に重要である必要があり、その背後には世論の真摯な関心がなければならない。
しかしながら、現実の日韓関係、とりわけ韓国側の状況を見る限り、そこに日韓間に横たわる何かしらを大きく重要視し、力をもってこれを解決しようとするエネルギーは存在しない。昨年の大統領選挙において慰安婦問題を含む日韓関係がほとんど争点にならなかったことに表れているように、今日における韓国での日本への関心はかつてとは比べ物にならないくらい低下しているからである。
だとすれば、考えられるのは第二のシナリオである。日韓両国間の歴史認識や安全保障を巡る乖離は今後も拡大し、両国世論はそれに不満を募らせることとなる。
しかしながら、日韓関係が重要視されない状況では、これを解決しようとする真摯な努力がなされる可能性は少なく、両国は不満を抱えながらもこれを放置することとなる。結果として、やがて相互の関係は縮小に向かい、世論にはあきらめに近い感情だけが拡大する。
結果として訪れるのは、日韓関係の「安楽死」に近い状況である。それが果たして我々にとって望ましい結末なのか。この問題について考え直すなら、今が最後のチャンスなのかもしれない。
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木村 幹(きむら・かん)
神戸大学大学院 国際協力研究科 教授
1966年、大阪府生まれ。92年京都大学大学院法学研究科修士課程修了。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。著書に『日韓歴史認識問題とは何か』(ミネルヴァ書房)など。

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