京大現役合格の先輩がくれた受験勉強の金言
これは、『徒然草』にある「仁和寺にある法師」の一節だ。死ぬまでに石清水八幡宮を参拝したいと考えていた仁和寺の法師は、思い立って参拝に出かけたが、別のお宮を石清水八幡宮だと思い込み、そこを参拝して帰ってきてしまうという話だ。
「少しのことにも先達はあらまほしきことなり」という言葉は、石清水八幡宮本体がその山の上にあるということを知っていた作者吉田兼好法師が放ったものだ。これは口語訳すると 「ちょっとしたことでも、経験のある人による指導は必要だ」 となる。高校時代に古文の授業で習ったこの言葉、私は今でも深く肝に銘じている。 なぜなら、私はこの“仁和寺にある法師”と同じように、思い込みから大失敗(浪人)をしてしまった経験があるからだ。 井の中の蛙、大海で溺れる
私は人口8千人の小さな町で生まれ育ち、人口27万人の町(当時の私にとっては大都会)にある高校へ進学した。そこはとんでもないところだった。第1回目の実力テストで私は自分の実力の無さを思い知らされた。全校生徒270人中100番だったのだ。当時、100番は国立大学の合格のギリギリラインだと言われていた。
みんなと同じことをやっていても、絶対にみんなを抜くことはできない。授業を理解しているだけでは成績は絶対に向上しないと思い込んだ私は、学校の授業はそっちのけで難しい問題集の問題を解きまくった。みんなに追いつくには歯を食いしばり、寝る間を惜しんで、血の滲むような努力をしないとダメだと思い込んだ。当時の睡眠時間は5時間程度だったように記憶している。しかし、テストの点は一向に上昇しなかった。
根拠のない思いこみに支配されていた高校時代
高1のある日、成績に伸び悩み、思い悩んでいた私は先輩の廣瀬さんに相談した。彼は、私が当時所属していた陸上部で1学年先輩だった。いつも学年で1、2位の成績を争っていた。彼は後に京都大学の数学科に進学することになる。
廣瀬:夜ちゃんと寝てるか?
私:えーっと、5時間程度です。
廣瀬:だからお前は成績が上がらないんだ。俺は8時間以上は寝るようにしてる。俺は9時半には寝て、朝は6時くらいに起きる。家庭学習は夕食後2時間弱だ。
私:1日たった2時間程度でそんなに成績がいいのは、廣瀬さんが頭がいいからですよ。
廣瀬:おまえは大きな感違いをしている。学校の授業で5時間程度は勉強しているじゃないか。だから、1日7時間は勉強していることになる。この7時間、ベストの体調で望むには、9時半に寝ないと俺は無理だ。おまえは学校にいる5時間をおろそかにしている。
私:でも、学校の勉強なんかやっていたって大学に受かりっこないですよ。
廣瀬:いやいや、教科書の章末問題はたいてい入試問題でできているから、結構難しいんだぞ。それに学校でもらった薄い数学の問題集、これもなかなかいい。学校ではわかったつもりでも、時間が経つと案外できないものだ。だから忘れないように家で復習する。ベストな体調で学校の授業に臨んでいれば、復習も短時間で終わるだろ。
廣瀬さんは他の人たちとは違って塾には全く行っておらず、ひたすら学校の勉強を中心にしていた。また、学校でのパフォーマンスを最大限に上げるために睡眠を重要視していた。勉強の仕方や中身も大切だが、勉強する自分自身の生理学的環境を整えることが最も大切だということに当時から気づいていたのだろう。今思えば勉強のコツを掴んでいた。
しかし、当時の私は自分のやり方が正しいと思い込み、彼のくれた“金言”を聞き入れなかった。それは優秀な廣瀬さんだからできる方法で自分には向かないと、やってみることさえしなかった。私は見事に、大学受験に失敗した。
駿河台予備校で解き放たれた高校時代の呪縛
予備校での初日、私たちは2つのことを言われた。
(1)授業の復習を徹底的にしてください。
(2)11時には寝るようにしてください。
高校時代に廣瀬さんがくれた“金言”そのものではないか。ここでようやく私は目が覚めた。自分の思い込みという呪縛が解けた瞬間だった。
元プロ野球監督の落合博満氏は自身の著書の中で「精神的なスランプからは、なかなか抜け出すことができない。根本的な原因は、食事や睡眠のような基本的なことにあるのに、それ以外のところから原因を探してしまうからだ」と述べている。
正しい睡眠と食事は精神のバランスを整える。これらがうまくいかないと、落合氏が述べるように「それ以外のところ」から原因を探してしまい、かつての私のような悪循環に陥る。人は不安に陥ると、間違った努力をしてしまうことがあるのだ。
努力することは大切だ。でも、どうせするなら正しい努力をしたい。成績のいい人は何か裏技を使っているに違いないと思われがちだが、やっていることは意外にシンプルだったりする。習ったことを愚直に自分のものにしているだけだ。「凡事徹底」である。
うまく行っている人を“パクる”
成果を出すために一番効率がいい方法は、うまく行っている人を“パクる”ことだ。あの時、廣瀬さんは「学校の勉強をおろそかにするな」と言った。学年トップの廣瀬さんは、どうぞ”パクってくれ”と言わんばかりに全てを私に教えてくれていた。しかし、私はそれを”パクろう”ともしなかった。その真意がわからなかった。全く愚かな少年だった。
新しいことを学ぶ時、自ら本を読んだりして研究するのもありだが、よくわかっている人に話を聞いて、それから本を読むのもありだ。その方が理解も早く、深くなることがあるからだ。自分で一から学ぶより、わかっている先生に習ったほうが絶対に効率はいい。
「少しのことにも先達はあらまほしきことなり」。
非常に深い意味を持つ言葉である。あれから30年の歳月が経った。廣瀬さんの“金言”は脈々と次世代に受け継がれている。
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