2014年7月13日日曜日

14115(4)-1 米国での主要市場内の変動と将来

14115(4)-1

米国での主要市場内の変化と将来
(学びと職種での関連;ハーバード大クレイトン・クリステンセン教授)(4)-1

既に商品寿命・イノベーションに触れたが、競合技術の参入を纏めていた学者がおられた。これは”The future of State University"という講義である。
米国のような巨大市場で、内外の参入者がいかにして、伸びてゆきトップ企業を脅かすまでになか、その過程と理由説明する。内容は殆どの大企業や基幹産業に当てはまるものであるC教授は破壊的革新(Disruptive Innovation)などの分野でも世界的な著名人。

70年後半からキラ星のような米国の鉄鋼産業が、内外メーカーの工場に置き換えられ、それがミニ・ミルというスクラップを原料とする電炉(平炉)の脅威にさらされる過程をみてきたので、まさに実感するものといえる。筆者抄訳(約1時間;カッコ内筆者;https://www.youtube.com/watch?v=yUGn5ZdrDoU

米国の鋼業で何が起ったか

鉄鋼業では60年代後半から現われたミニミルは巨額の投資を必要としないので悪くない粗利であったが、なぜ高炉(総合)メーカーはそれに注目しなかったのか。
79年*注)に価格が20%も暴落した際、鉄鋼の中でも1番単価の安い鉄筋コンクリート用の丸棒(rebar.;reinforcement bar)は利益率も7%と低い。
(*注;2度目のオイルショック時、原油の値上げによるインフレ率CPIが21%になり、プライムレートもそれを越えた不況になった。)

そのため、大手は付加価値が12%と高い構造用(H鋼・Iビーム・アングル材)などや自動車用の薄板に集中して、採算性を向上させる方向に転換、84年にはシッポ切りして生産中止した。(ここでミニミルは大きなシェアを得ることになった。)

そして03年にはベスレヘム社が破綻、分割されミタル他に転売されるなどで、現在はミニミルが60%強のシェアを占めている。
総合メーカーは優秀な人材を集め、さらに上を目指すが、底辺の製品に戻ることはできなかった。スクラップ鉄から再生するミニミルは、鉄鉱石を原料とする大掛かりな設備投資も要らないため、価格の低い低級品というイメージもあり、無理もない。

意図してではないだろうが、底辺から入ってくると、それを注目することはなく、だんだん上がってくるのをトップ企業グループは押さえるのが難しいのだ。(低品の商品の競合他社に対抗するための製品などは、同じ会社内では担当を希望する人も少ないから、別ブランドでやるが、成功例は少ないようだ。) 
 むろん無抵抗ではなく、輸入品に対しては家電では米国メーカーによるダンピング訴訟、鉄ではトリガープライス、車では消費地生産比率=ローカルコンテンツなど輸入規制が設けられた。(現在の中国の為替管理による一方的に有利な製品輸出は、相手国の経済無視であるから、長続きするわけがないと思われるが、生産能力を倍増させたため、世界市場では製品がだぶついて、価格が軟化している。)

ク教授はソニーの例をあげて、ポケットラジオで米国の市場に売り込んできたが、これは既存のラジオをおきかえるというよりは、テレビを買えなかった一般市民や、学生で音楽をききたい層で持ち運びできる音楽やニュースの需要拡大で受けたのだ。トランジスターの品質があがるにつれて、オーディオ系から用途が広がったのだ。トランジスターで、真空管に要求された条件に耐えられるものは開発できなかったのだ。

自動車・家電でも同じ

トヨタはカローラという経済的小型車を持ち込んできて、品質の向上もあり小型車のリーダーになったが、中級、上級と進むなか、今キアが同じことを行って、ボトムを置換えている。

トランジスターは最初は51年代に補聴器として現われた。その後、ソニーが59年に半導体により小型化したポケット・ラジオで市場に参入した。それにRCAGEも全く痛みを感じなかった。ソニーの製品は改善され、パナソニック他が続いたのだ。トランジスターは真空管よりも小さく、効率のよいものだったが、それに気付かなかったのだ。その内に家電の市場は日本製に置換えられた。

日本は82年には米国の4倍の技術者を教育し、製造業で米国市場に参入してきた。
マス(数学)、サイエンス(科学)、テクノロジー(技術)を学ぶのが中産階級になる方法になった。シリコンバレーの創業者はインド、中国、イスラエル出身でマス、サイエンス、テクノロジーを学んだが、その2代目の子供たちは学ばない
(貧困は学びの動機なのだろうか。この傾向が続けば、子供たちは厳しく競争をしながら学ぶ環境におかねば、将来は産業はおろか学問の世界まで、先進国には雇用のチャンスが狭まることになる。理系の教授はみなアジア系だ。巨大市場に参入してそれぞれの市場で骨をうずめる他はないのか。)

大学では何が起っているか(オンライン・ラーニング)

ホリデーインはホテル業で上位を狙ったが、隙間がなかった。上位がやっているサービスを破壊せずに、自社をグレードアップするには高い人材を雇わねば、高級なサービスはできないと悟った。
IBM社は長期にメーンフレーム市場の95%を抑えていた。モノポリーだからと分割しようと訴訟したが、誰にも買えるパソコンが現われ、市場を変えてしまった。

ハーバードのMBAのように学科で900人の学生を対象とし(3万ドルの)学費をとる大学は、教育は個々の学生に合わせたカスタマイズで生き残ってゆくのか。寄付がないと成り立たない。(最近は1教科3ヶ月だけだと5万ドルとも聞く)
フェニックス大学(オンライン大学)がやってきて、講義を頼まれた。構内は貸せないが外部でやるならと許可がでた。対象者に講演を行ったら、受講者は美人モデル達だった!あらゆる最新技術を使っての講義は実際より感動的に映っていた。135千人を対象にしたいと言われてショックを受けた。(片やオンライン・スクールは$200x135,000人=27百万ドルと同額。1人2000ドルもとれば、広告料他で大きな利益)

同様にコンコード・ロースクールという無名の大学が、教授の講義をオンライン・スクールで行うという。この受講契約の参加会員は、内容を学びたいから参加しているが、弁護士になる資格を求めているのではない医者とか色々で、新たな市場を開いている。
(受講料を100分の1以下にし、受講者数を100倍にする。ミニミルと同じだということか。)

相互依存の統合科目(職種)かモジュールか

違いに対応するのにはカスタム化を必要とするから、各学生に合わせるというカスタム化は大学で行い、そうでないものはオンラインでよいということになるのか。しかしハーバード卒業生の望む給与15万ドルでは雇える会社は限りがあるということになる。

相互依存のために、片方を10行のプログラムを変えると、マイクロソフトのソフトは1千万ヶ所を変更し12億ドルかかるかもしれない。それ程、相互に関連しているのだ。同様に、数学は1つの学科として他の学科と別におしえる。マス・サイエンス・エンジニアリングはそれぞれが別の学科として教えられている。
しかしマス(数学)はバイオなど、ほか特定の科学と1緒に使われる。私のMBAポスト・グラデュエート・クラスでの40年でも、数学だけを教えたことはない。実際は他の学科と1緒に考えて教える。
しかも教育には大学別という枠があり、統合されている必要がある。これが障害になるのではないか。

ハーバードでも、様々な学科をつくり、それを教えながら、インテグレーション(統合)し拡大してきた。この統合化の最大の問題は、他への影響なしにどれか1つを取り出すわけには行かない点にある。これも学科が充実して教える科目の限界に近づいている。

つまり統合すると表の縦項目が限界になれば、横にパソコン業界のようにモジュラー化してゆけば、自分の得意分野だけを造ればよいことになる。
これは後述する。


14116

各産業の将来像(学びと雇用の関係)(4)ー2
   (クリステンセン講義;14115の続き)

産業界でいえば、会社での職務の分類、大学では学科の項目などを縦に列挙すると(表左欄)、これらは学科としての枠組みと科目間の統合性という共通条件で縛られるから、1つを取り出すことは簡単ではないと述べた。




左欄縦の方向でのイノベーションは時間も掛かるのは、マイクロソフトの言語アーキテクチャーで書かれたプログラムを、コントロール・データに組み込むのは膨大な作業になるのと同じである。

縦の職種(科目)は統合されていたがため、それぞれを1つだけ取り出すのが大変だったが、モジュール化で右欄の科目内でのイノベーションは瞬く間に容易に行えるようになった。 
 (縦棒線左からIBM、コントロール・データ、ディジタル・エクイップ、アプライド)
  
『誰のためにでも、何でも作ります』で経済性(競争力)を保てるか

GMのポンティアック工場は『どんな部品でも、どこの会社のためにも作れます』という素晴らしい工場であった。それぞれの加工工程は高価な工作機を集め、高価な熟練技師をつけてグループ化させ、顧客の作りたい部品(要素)を相手の望む順番で、切断、丸加工、穴あけ、中ぐり、歯車可能、ストレス抜きなどができる。
これを各社からの好みの工程でばらばらに引き受けると、それぞれの工程間での移動コストは、労賃を1とすれば、移動1、2、4、8回と2倍になる毎に一般管理費で3割ずつコストが上がることが分かった。それで労賃は管理費こみでは6.2倍になった

片やオハイオ州の工場で、こうした工程を1番頻度が多く重なって動くものに2列に絞り、真っ直ぐなラインにして、何でもやるとは言わないが、『特定のものを我々の決めた順番で加工することに合意してくれるなら、労賃は大幅に安くなる』というものが、ポンティアック工場より15年も前にできていた。そこでの労賃は一般管理費込みで2.2倍であった。(両工場レイアウト概念図は;ビデオ参照(https://www.youtube.com/watch?v=yUGn5ZdrDoU

これは総合病院も総合大学も同じで、それで学費がどんどん上がり、その結果MBAクラスの卒業生は初任給で16万ドルとなってしまい、これが払えるのは、ウオール・ストリートのインべストメント・バンクだけになりそうだ。病院も1つのことを治療する専門病院は安いが、総合病院はその何倍にもなってしまうのは、そのためである。

大学だけでなく、世の中の問題の解決する組織は大別すれば相容れない3つである。
1.ソルーション・ショップ;マッキンぜーなどコンサルタントはこれだ。問題を点検して特定して、解決策を選択する。大学のリサーチも同じである。
2.プロセス・ビジネス;これにはメーカーも含まれる。
3.ファシリテイティド・ネットワーク; ユニオン(組合)、ギルド、テレコマース、保険など会員制の掛かった費用に上乗せしてくる組織。

そこで大会社では、社内に経営者育成の大学を始めている。そしてハーバードMBAは世界的に先駆者のような教授が多数いる。(比較経済学)マイケル・ポーターの講義を聞きたい人は多い筈だ。
それは、個々の学生の要求に合わせて『何を考えるか』を教えられなくても、『どう考えるか』という考え方を教えることは出来るのだ。これは教授を商品化することであり、誰でも相手をする売春婦のすることだと非難する声もあるが、他者が始める前にやることではないか。そこにスケール・メリットというチャンスがあるのだから。(ハーバード内部の激論が聞こえてくるように感じた。)

(私見)オンライン・ティーチングは、内容を理解しているかが不明な『判った気になる』聴衆(会員)をつくる面では、新らたなビジネスチャンスである。オンラインの方は、鉄のスクラップのミニミルであり、既に出来上がったものをリサイクルし転売する事業であるから、これはこれで新事業とも言える。

しかし、講義の内容に質問や疑問を抱える仲間が横にいて、良いコーチがいるから、興味がや想像が広がり、精一杯の知恵をしぼり競争する部分の臨場感の再現は何処まで可能なのか。ある映像を見たときに、それを皆が同様に感じえるのか。
イノべーティブな人材と、理解力の優れた人材は、同じような学科の組み合わせなのか、大きな疑問をもつ。その意味で少人数のカスタム教育の意義は消えないと思う。

製品グループの中でも底辺の安価で利益率の低い部分への参入は、それに対抗するよりは譲ってしまうが、その参入者が品質を上げ中位から上に間口を拡大してくると、止めるのは難しい。それらを実践してきた人には、同意せざるを得ない分析である。
 
その防止・対抗策として、最高の製品群の維持とそれに要するイノベーション努力は、今日のドイツの自動車技術に1つの模範がみえ、またハイブリッドや電気車に日本のメーカーのイノベーションに可能性をみる。
ITOSやアプリ部分をモジュール化と見る点がユニークである。教授の分析は、私が述べてきた商品寿命とは別の観点のオーバーヘッド経費と、モジュール化である。

もう1つは、ことに次世代の人たちが、創業世代が持っていたモノ造りに要するマス・サイエンス・エンジニアリングを学ぶ努力を継続できるかどうかである。
その意味では大学は学生の得意分野に特化できる隔離環境が望ましい。

国の経済力が上がるにつれ、学生達は努力や苦しみに耐えるよりは享楽(スマホ・バイト・飲み会)に流される生活を求める。
親は子供に対しただ優しくして、厳しくしつけ将来の苦難を警告し備える努力を怠る。成人しても親元にい続け、金も払わない子供を増やすのは、亡国の兆しと考えられないか。
継続力には精神面の忍耐・耐久力と技術面でのハングリーな学究人材のレベル維持をする環境が条件になる。つまりは、教育と環境に重点が戻る。






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