2014年1月28日火曜日

14052 法の支配とその敵


14052

法の支配とその敵(「劣化国家」を読んで)

先に(14051)で紹介した『国家はなぜ衰退するのか』につづいて、是非とも触れておきたいのは『劣化国家』である。(ニーアル・ファーガソン著/櫻井祐子訳;BBCのReith Lectureの書籍化あるいは、『法の支配、その敵』というハーバード大学の講演をベースにしたもの。)

この英国出身の著者も米国の議会・政治が、弛緩してきたことを危惧している。国が危うくなる様子を金融面にスポットをあてて述べているので得るところは多い。ここ数年のリーマンショックの後遺症による世界の経済的な混乱とあわせて説明しているが、どちらも欠かせない良書と感じる。

民主主義・資本主義・法の支配・市民社会というブラックボックス

これらの言葉はそれぞれが重複した部分があり、人により中味がずれていることを注目せねばならないという。「大統領の任期は4年に限る」というスローガンを部屋に貼っていたリビアのカダフィ大佐のように国のトップの座を40年あまり握っていた人もいたからだと。

日本の国債はGDPの236%に膨らんでおり、米国の107%、英国の88%と比較しても群を抜いている。いわばまだ選挙権を持たない将来の国民からの借金で現在を生きているのもこの借り入れ制度があるからだと。(要するに子孫に美田を残すどころか、美食のつけを借金で子や孫に残している。)そして選挙で選ばれた政治家は支出削減には、公務員と受益者から強い反対を受けている。

創られる金融危機

レーガンによる不況対策の規制緩和で、米国内で倹約が姿を消し、過小な資本で過大なリスクが許されるようになり、預金保険制度で銀行も安心して過剰な貸し出しが出来るようになった。強欲は善とされる前の、銀行の制度で融資と投資が2分されていたグラス・スティーガル法(*)時代の方が安定していたというポール・グルーグマンの指摘がある。(*これが98・99年に緩和され銀行が証券に参入出来るようになった)

   (70年代の経験に基づく私見を述べれば、ベトナム戦争のつけを払うために、金がドルとの兌換     から解放・増刷されインフレが加速した。このドル安を補填するため、OPECが組織され原油価     格を3ドルから11ドルに値上げした。原油価格の暴騰は、インフレを招き79年にはプライムレ       ート21%へと、通貨供給量をふやしたのだ。その後も、イラン戦争でのドル安・円高はつづき、     プラザ合意あと86~7年には円は250円から125円に倍増、90年代のバブル崩壊となった。     戦争・石油価格・米国の金融・証券法の変化は注目すべきと考えられている。)

(私見を述べれば、大国の戦争が始まった場合、どうせ円が安すぎるといわれ切り上げを迫られるなら、そこで日銀を通じてのQE(量的緩和)を行い、円安に誘導しておけば、バブルで不動産が急騰しても、消費者物価は上がりデフレにならず、円高に誘導されてもトントンにならないか。)

デリバティブはドルや円など為替や原材料などの市場変動のリスクを平準化するために考えだされたが、非常に複雑化して確率や微分などに強い人材を抱える必要がでてきた。変動をおさえるツールは金融業を複雑化し、法規も常人では理解できないレベルに達した。法の支配を離れた法律家(議員)が悪法を作る結果になっている。

   (筆者の経験でも従来の頭金が不動産の25%、ローンは年俸の4倍までという条件を緩めて、1     0%の頭金で青天井で貸す金融機関が増えて、値上がりだけを信じて投機に走った結果が08     年のリーマンショックであった。今中国で起きている不動産投資も同じだが、経理内容が信じ       られないので、リスクが拡大している。)

法による規則遵守コスト

これは米国の場合は制定・解釈・執行のコスト年945億ドルのことでも、1万3千人のロビイスト費用33億ドルのことでもない。法の遵守のためにかかる1.75兆ドル、その上かかる8650億ドルの不正コストであるという(100円換算で260兆円/年である)。
米国は他の先進国の2倍以上に損害賠償の訴訟がしやすいことで、GDPの2.2%にもなっている(2003年)という。世銀ランクランクほか色々な比較があるが、先進国は制度的な衰退があり、トップ1%の所得は更に拡大している。

つまり、金融業でのリスク管理商品がうまれ、その規制が更なる複雑化に拍車をかけ、法律も複雑化して、規則遵守のために膨大な経費がかかるので、不平等が助長されているようだという。

都市の未来は効率がよいが

都市は富の創出、創造性、イノベーション、発明の中心であり、インフラコストは人口が増えるほど安くなる。しかし、青天井の成長はありえず、災いの1つは数学的に必ず崩壊に至ることだといううジェフリー・ウエストを引用している。未知のものとして世界的な疫病爆発やアジアでは断層地震ほかがありうる。今後の非西欧社会では革命と戦争のリスクだという。
今日のような、オバマ大統領のいまあるものは国が作り出したかのような、未来計画もなく、過去への感謝だけでこれからの問題、公的債務の問題は解決しないのだ。

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